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幸せな家庭のカタチを考えるブログ

新盆前に最愛の妻を偲ぶ

彼女は付き合っている時から欲しがっているものが3つあった。壁一面の本棚、赤いソファ、ルビーの指輪。全てを買ってあげたかったけど同時には難しかった。まずは壁一面の本棚。一緒に好きな本や漫画を置いて、それでもスカスカだねと笑った。

次に赤いソファ。彼女は僕と結婚してから娘を産み、その後精神的に不安定になっていた。元気な彼女が見たいと心から願っていた。今振り返ればそれも彼女にとっても僕にとっても重荷になっていたのだろう。

そんな意欲の湧かない彼女が「赤いソファがほしい」と言ったのだ。迷わず買った。組み立てて、部屋に置いた時には少し嬉しそうにしてたのを覚えている。時間を作ってまた好きだった絵をここで描きたいな、と言っていた。

ルビーの指環をあげる前に彼女は自ら天国へいってしまった。僕のせいだとわかっている。あんなに優しくて、人を喜ばせることが好きだった彼女が住み辛い世界を作ってしまったのは、紛れもなく僕だ。償えないことはわかっていても、今でも夢で会う度にただただ謝ることしかできない。

しかし私は娘の唯一の父であり世帯主である。仕事も楽しい。日々の生活に苦戦することはあれど、妻の分まで娘を幸せにしたいという嘘偽りない気持ちを持ち、周りの助けを得ながら、楽しく日々を過ごせている。


それはほんの小さな出来心だった。新盆だから妻が帰ってきた時に居心地が良くなればいいなと思ったのがきっかけだ。

きっと彼女は帰ってきたら真っ先に赤いソファに座るだろうと思ったから、掃除をしていた。色んな言い訳をして先送りにしていた遺品整理に改めて着手した。

これでソファにゆったり座れるかな、くらいに片付いた時に見たことのないノートが出てきた。何も書いてないなら娘のノートに使おうかな、とパラパラめくると彼女から僕に宛てた手紙が出てきた。死後初めて見るものだった。

妻を支えるために私が苦しんでいること、そのせいで夫婦らしい暮らしができないことが辛かった。自責する必要はない。僕といる時間が一番好きだったと書いてあった。

涙が止まらなかった。彼女からの言葉を受け取れた喜びやこの言葉を受け取らなければならなかった自分の不甲斐なさが混在して溢れた。

会話がキャッチボールなら、これが彼女からの最後のボールになるのだろう。そして僕はこれからもボールを投げ続ける。

僕は君がやりたかった分も娘と幸せに過ごすし、心配しなくていいくらい最高の親をやり遂げる。そして君みたいな最期を迎える人がいなくなるために、できることを考えて取り組むことを約束する。どうか安らかに眠ってほしい。いつもストレートでごめん。